【設定厨への提言】「見切り発車」執筆法
設定を考えるのは好きなんだけど、なかなか執筆に取り掛かれない。
設定を考え終えたら満足してしまう。
そんな人のために、「見切り発車」執筆法を紹介します。
「見切り発車」執筆法とは、名前の通り設定を考えないまま見切り発車で執筆することです。
……まあ、大層な名前を付けるほどの執筆方法じゃないし、多くの人がごく普通に行っていることだと思います。
でも、「当たり前のこと」を確認するってとっても大切な事なんですよ(虚勢)。
見切り発車執筆法――要は「つべこべ言わず書け」ってことなんですが、私は以下の三つの点を意識しています。
- 一番楽しいシーンを一つだけ考える。
- 考える際にリアリティ、整合性、合理性は一切考慮しない。
- そのシーンから「何故」を積み重ねていき、ストーリーを構築する。
設定ばかり考えて肝心の本文に着手出来ない人は、恐らくですが「全体」と「語る物」が乖離しすぎているのが問題なんだと思います。
「全体」とは、歴史で言うと、その時代で起きた全ての事です。
たとえば、1600年の関ヶ原の戦いが起きた時、ある場所では誰かが農業を耕していたり、ある場所では誰かが死んでいたり、ある場所では誰かがくしゃみをしていたり……。別の国では別の事件が起こっていたり。
「語る物」はその内ひとつを取りだして、一つの時間軸の中に再構築したもの。要はストーリーです。
設定(全体)を考えれば考えるほど、ストーリー(語る物)からはかけ離れていきます。
「全体」を考えると言うことは、ありとあらゆることを網羅しようとする事であるのに対し、「語る物」を作るのは、全体からごく一部を抽出しそこに登場人物や作者の思想を反映させたりする事。
拡散と収縮とでも言い換えましょうか。何にせよ、設定を考えるのと、物語を考えることではベクトルが異なっています。(もちろん書きたい作風や、ジャンルによっても異なるのでしょうが)
と言う訳で、設定ばかりにこだわる人に対して、お手軽にストーリーを構築する方法を提供しよう! それが「見切り発車」執筆法ということです!
以下で一項目ずつ解説します。
一番楽しいシーンを一つだけ考える。
どんなシーンでも良いです。
楽しいと言うのは「書いていて自分が楽しい」ということなので、登場人物の何気ないやり取りでも、風景の描写でも、ラブシーンでも、殺戮の場面でも何でもいいでしょう。
個人的には物語の中間部辺りのシーンが書きやすいですが、結末でも冒頭でも何でもいいと思います。
プロの作家さんにもいますよね、「最初にエンディングを思いついた」とか。ハリーポッターも一番最後のシーンから考えたんだとか。
何故一つだけなのかと言えば、考える分量を限定することで、無限に設定が広がっていくのを抑えるとともに、最終的に突飛なアイディアなんかが出てきたりして面白いからです。
出来ればこのシーンを考える時点で、ラフスケッチ的に執筆してしまうのが良いと思います。
考える際にリアリティ、整合性、合理性は一切考慮しない。
リアリティとかを考え始めると、筆が進まないと言うことが一つ、面白みが無くなると言うのが一つです。
後から帳尻を合わせるので大丈夫です。
そのシーンから「何故」を積み重ねていき、ストーリーを構築する。
たとえば、「女性(A)が、ビームサーベルで男性(B)を切り殺す」シーンを最初に考えたとしましょう。
Q何故「女性(A)が、ビームサーベルで男性(B)を切り殺」したか。
A男が浮気をしたから
Q何故浮気をした程度で切り殺したか。
A女性(A)が男性(B)に過度に依存していたから。
Q何故女性(A)は男性(B)に過度に依存していたか。
A男性(B)が自分の手駒として使うため、幼少のころから女性(A)を洗脳してきたから。
Q何故女性(A)はビームサーベルを持っているか
Aビームサーベルはその時代の標準装備である。男性(B)が女性(A)に手渡していた。
Q何故男性(B)は浮気をしたか
Aもともとその男性(B)は女好きだから
Q何故女好きなのか
A子どもの頃から両親から関心を向けられず、承認欲求を満たすために性に依存している。
Q何故男性(B)の両親は、男性(B)に関心を向けなかったか。
A世界全体が荒廃しており、人類の精神が荒れている。生きるのに必死で子どもに関心を向ける余裕がなかった。
……
即興で、適当に考えたのですが、なんとなくストーリーが見えてきましたね。
「女におぼれる寂しい男性(B)と、洗脳された女性(A)の屈折した恋愛模様と、その破たん」までストーリーに出来そうです。二人のねじ曲がった心理描写をきちんと描ききれば小説になりそうですね。
さらに、設定も浮かび上がってきました。
「ビームサーベルが存在する程度の近未来で、人類全体が疲弊しているディストピア(?)」
さあ、設定厨の皆さん、ここまで来たら思う存分設定してください。
「見切り発車」執筆法のメリットとデメリット
ちょっと復習しましょう。
ここで言う「見切り発車」執筆法は、
- 一番楽しいシーンを一つだけ考える。
- 考える際にリアリティ、整合性、合理性は一切考慮しない。
- そのシーンから「何故」を積み重ねていき、ストーリーを構築する。
というもの。一つ決めたシーンから、「何故」で遡って行くことでストーリーと設定が浮かび上がってくると言う書き方です。
メリットは、
ストーリーと設定が繋がっていること。
物語と設定がシンクロしているので、物語に深みが出るように見えます。
設定を先に書き始めると、ストーリーとなかなか上手く結びつかないことがあります。
「何故」で繋がっていくので、考えるのが楽だということ。
考える範囲が狭くて具体的なので思いつきやすいと思います。
一方デメリットは、
注意して執筆を進めないと、設定に矛盾が生じてしまうこと。
何故で遡って行った設定は、リストや図にまとめて置くと良いでしょう。
ネットでの連載に向かないということ。
頭から書いていき投稿するタイプの人には、ちょっと相性が悪いかもしれません。
プロット作成の時点で導入するには問題ありません。
「見切り発車」執筆法。万人に当てはまる書き方かどうかは分かりませんが、設定ばかり思いついてなかなかストーリーが書けないと言う人、一度試してみてはいかがでしょうか。